2015年5月 4日 (月)

とっぴんぱらりの風太郎

とっぴんぱらりの風太郎

とっぴんぱらりの風太郎

(´・ω・`)ネタバレの可能性があります(´・ω・`)

辞書並みの分厚さです。
700頁超あるそうですが、これを2冊に分けず1冊にしたあたりに良心を感じます。
しかしこの厚み、もし寝転んで読みながらうとうととしていると、ちょっとした流血事件になるかもしれません。
もしくは、カッとなった瞬間に手元にあると、確実に凶器になりそうです。
「鈍器のようなもの」「バールのようなもの」といわれるアレです。
(どうでもいいですが、バールのようなものって、バール以外に何があるんですかね?そもそもバールって、そんなにあちこちにあるもんなんですかね?)

万城目作品というと、「鴨川ホルモー」「鹿男あをによし」「プリンセストヨトミ」など、映像化率が高くてふざけた・・・もとい、奇想天外な設定で軽妙な文体が特徴ですが、この「とっぴんぱらりの風太郎」は今までの系列とは一線を画す、正統派時代小説でした。

とはいえ、やる気のない平凡な男が壮大な事件に巻き込まれて行く主人公像や、ひょうたんにまつわるふざけた設定などは、いかにも万城目作品らしい。
その一方で、過酷な運命を背負う忍びの者たちの行く末や滅びゆく豊臣政権の悲哀、「新しい平和な時代にはお前たちは不要」と引導を渡されたかのように登場人物たちが次々に命を落としていく様は、真面目か!叫びたくなるくらいの真面目な時代小説っぷり。
いやぁこういう小説も書いちゃうんですねぇこの作者は。

主人公は忍者崩れの風太郎、「ふうたろう」ではなく「ぷうたろう」、つまりプータローです。
ニート忍者と本の紹介ページにはありましたが、ニートのように誰かに寄生しているわけではなく、定職はないながらも、日雇い仕事や荷物運び、ひょうたん栽培などをして生計を立てている点はまさにプータロー、現代でいうところのフリーターといったところか。
でも普通のフリーターと違うのは、元忍びとして、幼いころから忍術を叩き込まれてきたこと。
とはいえ、伊賀の里を体よく追い出されてからは、術を使う機会もなく、ただのんべんだらりと生きている。
普通の忍者モノの小説なら、抜け忍とはいえもっとカッコよかったり思いっきりコメディに走ったりするところだが、この風太郎は愛想もなく忍術もろくに使えず、本当にダメ忍者。こんな忍者の主人公ってアリなんか(笑)。

「おっかあ!」と叫びながら死んでいく名もなき兵を見て、孤児の風太郎は自分は死ぬときは名前を呼ぶ人がいないと諦観していましたが、ラストは仲間に看取られ、仲間の名前を呼びながら息を引き取る。
戦により家族を失い孤児となり、伊賀の里に引き取られて忍びになるほか生きる道がなかったわけですが、最終的には自分の意志で自分の進む道を決めた風太郎。
風太郎だけでなく、他の忍者も、そして「ひさご様」も、みんな定められた運命から最期だけは自分の意志で運命を選んでいます。
彼らの最期は悲惨ではありますが、最後の最後で自分の命を自分のために、誰かのために、世の中のために使ったという意味では、崇高な最期だったといえないでしょうか。

さて、この作品は著者の「プリンセストヨトミ」エピソードゼロといえる作品で、「プリンセストヨトミ」を読んでいればさらに楽しめると思います。
プリンセストヨトミ誕生秘話やひょうたんエピソードなどはもちろんですが、風太郎たちが掘らされていた大坂城への抜け穴が、400年後にあんなことになっているのか~とか、いろいろと小ネタがちりばめられています。
また、直接関係あるわけではないけれど、風太郎が身を寄せていた吉田山は「鴨川ホルモー」の面々がワチャワチャしていた辺りだし、意外と他の作品とのリンクがあって、ファンであればファンであるほど楽しめる作品かもしれません。

 

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2015年1月12日 (月)

『アイビー・ハウス』原田ひ香

アイビー・ハウス (講談社文庫)

アイビー・ハウス (講談社文庫)

(´・ω・`)ネタバレの可能性があります(´・ω・`)

原田ひ香作品を拝読するのは、「東京ロンダリング」に続き2作品目。
表紙のコーヒーカップと「アイビー・ハウス」というタイトルに惹かれて図書館でジャケ借りしました。

二組の若い夫婦が、一軒の中古の二世帯住宅を共同購入し、シェアハウス生活をはじめて5年。
夫婦だけで都市圏の一軒家を購入するのは負担が大きいけど、二家族で折半して共同購入し、共通の出費や公共料金も共同財布から折半、経済的な負担は二分の一になり、また二世帯住宅なのでお互いのプライバシーも適度に保てて楽しいことは一緒に楽しもうという、アイデアとしてはいいこと尽くめの新しいライフスタイル。

・・・と、当初はうまくいっていたシェアハウス生活も、ある小さなきっかけから少しずつ綻びを見せ始め、今まで気づかないふりをしていた小さな齟齬がしだいに広がっていき、やがて「うまくいっていた」アイビー・ハウスの生活も二組の夫婦生活も、雪崩のように崩れていく。

まぁ結婚していない私が上から言うのもなんですが、親との同居ですら難しいのに、否、夫婦の共同生活ですらうまくいくのは難しいのに、もともと旦那さん同士が親友だったという親しい関係だったとしても二組の夫婦が一つ屋根の下に住むって、かなり無理があるんだろうなぁ~と思いました。
特にこの二組の夫婦、基本的にライフスタイルや価値観が違い、経済的にも微妙に格差がある中で、知らず知らずのうちにかなり鬱屈を抱えていたのではないかなぁと。
賃貸でシェアハウスではなく、いきなり一軒家共同購入というのは冷静に見たらかなり無理していたんでしょうね。

そもそもこの中古の二世帯住宅、二世帯住宅のくせに風呂が一つしかないというのは設計ミスじゃないかと(笑)
二世帯住宅なら、キッチンバストイレは別々じゃないとたとえ親子の暮らしでも微妙に遠慮したりしないといけないような・・・
まぁ、予算的なものもあるので、こういうパターンもあるのかな。
でも、片方の妻がもう一方の妻に「抜け毛が多いんですね」と排水溝にたまった髪の毛のことを言われるシーンは、読んでいるこちらがドーーーーンと落ち込みました(笑)。
抜け毛が多いことを心配しているのか、それとも風呂の手入れをちゃんとしろよとイヤミをいわれているのか、善意なのか悪意があるのか、小一時間以上悩みそう。
まぁ、そういうことにクヨクヨしてしまう私は、シェアハウスは決定的に向いてないんだろうけど。

それほどボリュームのない本でさらっと読めるのですが、全編通して暗く不安感を抱くというか、メンタル的に弱っているときに読んだらどんどん落ち込みそうな気分になりそうだなぁという、ちょっと不安定な気分にさせられるストーリーでした。
主人公4人(二組の夫婦)が破滅に向かっているんだろうなぁと予想できるというか。

でもこういう特殊な設定の人間関係を描くのは、この作家さんの上手いところ。
「東京ロンダリング」でも、賃貸の事故物件に一定期間住むことで書類上事故物件でなくすためだけに雇われ住居を転々とする女性が主人公でしたが、読者としては「ふむ、こういう世界もあるのだなぁ」と考えさせられました。
シェアハウスにしろロンダリングにしろ、衣食住の「住」の部分が特殊な暮らしは何らかのストレスがかかるようで。

主人公夫婦たちは30代というライフスタイルの激動期にシェアハウスという特殊な形式を選んだために破綻という結末を迎えてしまいましたが、これって逆にシニア世代になってからだったら結構うまくいくのかも・・・とも思いました。
子どもが自立した後の老夫婦や、リタイアした独身者など、たまに顔を合わせながら生存確認(笑)しながら暮らすというのは心強いところもあると思うし、また現在問題になり始めている空き家の有効活用やコンパクトシティの観点からも良いのでは。
経済的に不安はあるが、まだまだ体は元気というシニア世代は、いきなり特別養護老人ホームへは入れるわけもなく、ワンクッションとしてこういうライフスタイルもあってもいいのではないかと。

まぁ、それはこの作品とは全然関係ないことですが(笑)。

いろいろと考えさせられる話でした。
ところで冒頭で登場した、謎の女の正体が結局よくわからないまま・・・
まあだいたい予想はつくのですが、結局彼女はなにをしたかったのか。
結果的にアイビーハウスを破たんに導くトリガーとなったのですが・・・
でもこういうことはよくあるかもしれません。
まったくの他人のちょっとした言動が、誰かの大切にしている者を破壊してしまう。
そんな怖さも感じました。

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2014年12月28日 (日)

『村上海賊の娘』和田竜

村上海賊の娘 上巻

村上海賊の娘 上巻

 
村上海賊の娘 下巻

村上海賊の娘 下巻

(´・ω・`)ネタバレがあります(´・ω・`)

本屋大賞受賞作。
作者の作品はいろいろ拝見していますが、ストーリーの最中に文献の説明が挟み込まれたり、現代の視点がちょいちょい入り混じる独特の文体は面白いですね~
登場人物や時代背景にどっぷりつかることはできませんが、文献や著者の説を提示されることにより文中で展開されているストーリーがより現実的、客観的になる。
瀬戸内海で繰り広げられる海戦を俯瞰で見ているような、不思議な気分になります。
こういう手法は好き嫌いがあるかと思いますが、私はこういうのも「ほうほう」と思いながら読むほうなので、結構好きな方かもしれません。

作品の舞台は織豊時代まっただ中、大坂沿岸で織田と一向宗が衝突した第一次木津川海戦。
兵糧攻めを受けている本願寺に食料を運びこむために出動した村上水軍の姫君が主人公です。

主人公の景姫がすごい。
誰もが驚くような醜女であり、自ら海賊働きをして暴れまくっているとんでもないじゃじゃ馬、しかも結婚適齢期を過ぎても嫁の貰い手もなく男を見るとガッついて値踏みする始末。
しかし↑はあくまでも戦国時代の価値観で、すらりと伸びた手足に大きな瞳、現代に置き換えればモデル並みの容姿の持ち主というのがポイント(笑)。
映像化を念頭に置いた設定だなぁとニヤニヤしながら読みました。

それからカメオ的出演の織田信長。
本を読んでいるだけなのに、頭の中にはスポットライトを浴びて燦然と輝く姿が鮮明に思い浮かぶほどのカリスマ性がありました。

その他の登場人物たちも、皆それぞれにキャラ立ちしていて面白かったです。

ちょうど今年の大河ドラマは黒田官兵衛が主人公ということで、この作品と同時代。
織田と毛利の対立や一向宗の動向など、大河ドラマで予習できたのでより親近感がわきました(笑)。今年は「信長のシェフ」や「信長協奏曲」など、信長と一向宗の対立を織り込んだライトな時代劇もあったので、そういう人も多いのでは。
でも海戦をテーマにした作品というのはあまり触れたことがなかったのですが、本当に悲惨というかなんというか、戦に憧れていながら実際に戦の真っ只中に放り込まれた景姫がそのすさまじさに茫然としてしまうのもとてもよく理解でき、感情移入してしまいました。
なんだか息苦しさも感じるような臨場感ある戦闘で、作者の筆力に圧倒されました。

上下二巻、千ページ近くある長編ですが、一気に読ませる面白さがありました。
映画化されないかなぁと思いながらも、登場人物があまりにも多くてそれはそれで大変かも。でも主人公の景姫はあの女優さんだよなぁ~とか、小早川隆景はあの日としか思い浮かばない!など、本を読みながら妄想するのも楽しかったです。

広島在住なので、村上水軍や瀬戸内海を舞台にした物語ということで、かなり楽しく読むことができました。
作者も幼少期に広島に在住していてクラスに一人は村上姓がいたという話をしていましたが、まさにその通りだったよなあと実感しております(笑)。
村上水軍をはじめ、毛利や小早川、また浄土真宗安芸門徒など地元のオールスターといった感じで、読みごたえがありました。
オールスターといえば泉州侍や雑賀衆など、あまり大河ドラマなどのメジャーどころでは取り上げられることの少ない人たちも脚光を浴びて大活躍するところがいいですね~

なんだかんだでとても楽しめる作品でした。
作者の他の作品もまた読んでみようと思います。

 

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『世界から猫が消えたなら』川村元気

世界から猫が消えたなら

世界から猫が消えたなら

(´・ω・`)ネタバレがあります(´・ω・`)

映画化されるそうで、文庫本も出て話題になっていたので読みました。

表紙の猫がかわいいっす。

かわいい表紙のイメージからなんとなくオシャレな純文学的作品を予想していましたが、内容は思っていたよりもヘビーでした。

郵便配達員の30歳の主人公が余命宣告を受けることから物語が始まります。
すでに母親に先立たれ、父親とは疎遠で一人暮らしをしながら猫を飼っている主人公。
恋人らしい人も現在はおらず、突然の余命宣告に茫然としているところに現れた、アロハシャツを着た悪魔。
余命を一日延ばすかわりに、主人公にとって大事なものがこの世から消えていくという、ちょっと何言っているのかわからないといいたくなるような悪魔とのやり取りの中で、主人公は次第に大切なものに気づいていきます。
しかし悪魔だのしゃべる猫だの、ファンタジーかつちょこちょこコメディを挟んできたり、読む前に想像していたストーリー展開とはかなり違っていて面喰いましたが、ふわふわとした詩的な文体がさらさらと読めて、物語に引き込まれていきました。

もし自分が明日死ぬことになったら?
なにか大切なものを消したら一日命を延命して上がると言われたら?
命より大切なものなんてないとよく言われていますが、自分の延命よりもその存在を消したくないと思うものって結構あるなぁと考えさせられました。

まぁとにかく猫がかわいい(笑)。
亡くなったお母さんの手紙も感動的。
映画も楽しみにしています。

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『猫といっしょにいるだけえで』森下典子

猫といっしょにいるだけで (新潮文庫)

猫といっしょにいるだけで (新潮文庫)

(´・ω・`)ネタバレがあります(´・ω・`)

タイトルに惹かれて購入。
すっかり「猫」という単語に弱くなりました。

50代の著者とその母親との二人暮らしの一軒家に突然現れた一匹の母猫と5匹の仔猫。
ペットとのつらい別れを経験しているお二人は、最初はこの野良猫親子に対して距離を置こうとしますが、生まれたばかりの仔猫を抱えて懸命に生きようとしている母猫にほだされ、とりあえず子育てが一段落するまで家に入れることに。

もうこうなったら猫の虜ですね~~(笑)

父親に先立たれ、母親と落ち着いた暮らしをしている著者の家庭に猫一家が居候することになってから、どんどん家が明るく華やかになっていくさまが鮮やかです。
同じことの繰り返しのような日常の中に、猫が飛び込んできたことによってあらゆる感情が芽生えたり新たな出会いがやってきたりと、歯車がかみ合ったかのように新しい世界が広がっていく。
ペットに限らず、こういうことって些細なことでも日常にあるよなあと共感しました。

共感といえば、独身で母親との二人暮らしの著者の境遇。
私も未婚のまま生涯を終えそうな勢いなので(笑)、他人ごととは思えませんでした。
母娘とも次第に老いを感じる年齢に差し掛かり静かに暮らしている中に、突然飛び込んできた猫たちにより、猫を通じて母娘のコミュニケーションも増えていく。
ペットの役割って、単に癒される存在というだけでなく、共に暮らす共同生活者なんだなぁと思いました。

母娘の丁寧な暮らしぶりやあたたかい友人たち、猫を中心に拡がる人間関係や心の豊かさなどもステキでした。

表現力豊かで気品のある文章で描かれる、みずみずしい猫との暮らし。
ジャケ買いならぬ題名買いながら、いい本に巡り合いました。

 

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2014年11月16日 (日)

『森見登美彦の京都ぐるぐる案内』森見登美彦

森見登美彦の京都ぐるぐる案内 (新潮文庫)

森見登美彦の京都ぐるぐる案内 (新潮文庫)

森見作品に登場する京都の名所を巡る案内本。
京都旅行のお供にもってこい!のような、そうでもないような・・・
森見マニアが聖地巡りをするには最高のお供になるはずですが。

サカネユキさんの写真がどれも良いです。
すごく雰囲気のある写真が多く、ときどき登美彦氏本人がプチ芝居しながら映り込んでいるのがまた良いです。
写真に添えられているのが、森見作品の印象的な文章の引用。
森見作品は京都の風景をけっこう細かく描写していますが、現場の写真と合わせて見ると、本当に作品の中の登場人物が見切れて映り込んでいそうなほど、雰囲気があります。

写真と引用文の他に、取り上げられた名所のプチ説明もあります。
地図や最寄り駅の案内もあります・・・が、地図はものすごくザックリしているので、本当に現地に行こうとするとちょっと危険かもしれません(笑)。

そして、書下ろしと思われる登美彦氏の随筆二編。
エッセイ・・・のような、小説のような、ちょっと不思議な、ときどきクスっと笑えるふざけた感じは、まさに森見作品の真骨頂。
そして、この随筆の中には、登美彦氏の現住所に関する衝撃の事実が記載されています。
これが一番の驚き・・・

写真いっぱい、文章少々ということで、さらっと読めます。
本も薄くてオールカラーの割には軽いので、まさに京都旅行に持っていくのにはちょうどいいのではないでしょうか。

一番気に入ったのは、鴨川デルタの写真。
青く澄んだ空と、静かな流れをたたえた賀茂川、高野川の合流地点であり、ここから「鴨川」と名前を変える特別な場所。
Y字型のそのデルタ地帯は森見作品でも「船の舳先」と表現されていましたが、私も若いころはこの場に立ってタイタニックごっこをしたっけ・・・(呆)。
近くの出町商店街で出町ふたばの豆餅を並んで買い、てくてく歩いて鴨川デルタへ行って、土手で出来立ての餅を食らう。
私の大好きな京都観光コースです。
まぁ、普通の観光客はいかないと思いますが・・・(笑)。

京都へ行きたいなあ~と思うのと同時に、過去読んだ森見作品を引っ張り出してきて読みたくなる、とてもいい案内書でした。

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2014年11月 2日 (日)

『東京ロンダリング』原田ひ香

東京ロンダリング (集英社文庫)

(´・ω・`)ネタバレがあります(´・ω・`)

ここ3~4年、引っ越し先を探しております(笑)。
だんだん面倒だなぁ~なんて思ってきた最近、この本をたまたま手に取りました。
この本の主人公は、賃貸住宅を「ロンダリング」するために1か月おきに住居を転々とするという「仕事」をしています。
あの面倒な引っ越しを1か月おきに。。。!!!と驚愕するのもつかの間。
どんどん作品に引き込まれて行きました。

主人公は、安定した結婚生活から一転、自分の浮気により離婚し、浮気相手にも逃げられ、無一文となって東京に放り出されてしまいます。
しかし、伴侶がおらず、仕事もない場合(ついでにお金もない)、これほど家を借りることが難しいとは・・・!!
私もいい年して家さがしをしていますが、伴侶はおらず、仕事は一応していますがお金はない、ということで、甚だ不安になってきました(´・ω・`)。
もっと高齢になってきたら、絶対賃貸には引っ越しできなさそう・・・

まぁ私のよろず相談はおいといて(笑)、家を借りることもままならない主人公は、ふと入った不動産会社である仕事を持ちかけられます。
それは、心理的瑕疵物件(いわゆる事故物件)の部屋で1か月間以上生活すること。
殺人事件や自殺、孤独死などがあった賃貸物件は、1人目に関しては心理的瑕疵物件であることを物件を検討中の人に伝えないといけないという決まりがあるそうです。
ただし、一度誰かが入居してしまえば、そこから後の希望者にはその旨伝えなくても良いとのこと・・・
一時期でも誰かが住めば、事故物件のレッテルをとることができる、ということで、主人公の女性は「ロンダリング」のために、事故物件を1か月単位で引っ越しながら暮らしているという設定。

しかし、自殺者や単身者の孤独死が増え続けている現在、こういう「事故物件」もどんどん増えているに違いない。
とすると、こういう「ロンダリング」って実際にあるのかも・・・と想像し、ちょっと怖くなりました。
我々借りる側にとっては「うーん」な制度ですが、貸す側の不動産屋や大家にとっては切実な問題ですね。

「ロンダリング」という仕事、やはり訳ありの人たちが多いようで、離婚と失恋、生活苦が一気に押し寄せ、空洞のようになっている主人公にとってはある意味向いているとのこと。
人とのつながりがなく、孤独な仕事のようですが、やはりそこに「住む」ということは何らかのつながりができてしまうことであり、そういうつながりから少しずつ自分らしさを取り戻していくというストーリーです。

こういうロンダリングの仕事、やはり日本人のDNAに組み込まれている「ケガレ」の思想が関係あるんだろうなあ。
見知らぬ人が亡くなった部屋に住むのはなんだか気持ち悪い、というのは、特に日本人の心情として顕著なのではないでしょうか。
事故物件が増えていく今後、このようなロンダリングの仕事は本当に増えていきそうだなぁと、いろいろ考えさせられました。

 

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『地震と独身』酒井順子

地震と独身

地震と独身

(´・ω・`)ネタバレがあります(´・ω・`)

「地震」と「独身」。
シンプルな表題ですが、韻を踏んでいます(笑)。

さて、「地震」とは、東日本大震災のこと。
「独身」とは、当時独身だった人々。彼ら彼女らがあの日、あの日以降、どう考え、どう行動したか??
被災した人、現地で医療やボランティアに従事した人、または東京で過ごしてきた人。
純然たる?独身者から、シングルマザー、震災後結婚した人など、様々な男女にインタビューし、レポートとしてまとめられていました。

酒井順子というと自虐的かつシニカルな文体でチクリチクリと毒を含めつつユーモアに満ちたエッセイが多いのですが、こんかいはさすがに徹頭徹尾真面目にひたすらレポートしていました。
「独身者」代表として、東日本大震災ときちんと向き合い、本に残そうという意志が感じられました。

東日本大震災を振り返るメディアでは、よく家族や地域の絆という切り口で取り上げられることが多いのですが、その枠にはまらない人たちは??いわゆる「独身者」はいったい何をしていたのだろう?

日常生活では、家庭からも地域からも関わりが薄く、ちょっと肩身の狭い思いをしながら過ごしている独身者たちですが、東日本大震災という非常時には、その物理的・精神的な身軽さを活かし、さまざまなところで活躍していたことが本書では取り上げられていました。
メディアではなかなか取り上げられることのない存在ですが、地味ながらも、頑張っていた!!
被災地から出た人、向かった人、遠くから見守った人などなど・・・様々なパターンがありましたが、独身者たちも皆被災地を、被災者を思って行動していたことがよくわかりました。

この夏、自分の地元でも大きな自然災害があり、災害はほんと他人事ではないなと改めて考えさせられています。
自分も独身者として、現実にどう向き合うべきか?
この本では様々なパターンが提示されていましたが、では自分ならどうするのか?
日頃から考えていかなければならないなぁと思いました。

 

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『想像ラジオ』いとうせいこう

想像ラジオ

想像ラジオ

(´・ω・`)ネタバレがあります(´・ω・`)

いとうせいこうといえば、「見仏記」シリーズや「ボタニカルライフ」など、ちょっとふざけた(笑)面白い本を書くサブカルチャーな作家さんというイメージを持っていましたが、こちらの『想像ラジオ』は純然たる純文学。
純文学というカテゴリーに分類するには軽妙すぎる文体やちょっとエンタメ寄りかなぁという気もしますが、東日本大震災という重いテーマを文学として死者の立場からとらえたストーリーは、純文学的かなぁと思いました。

物語の大半は主人公のDJアークの語りで構成されていて一人称の話し言葉が中心なのですが、何故か場面場面が映像として「想像」できます。

海沿いの高い高い杉の木に引っ掛かっている主人公。
その姿を近くの枝から見ている白い鳥。
杉の木の周りにまとわりつく黒い蛇(のような津波の水??)。
二人きりで肩を寄せ合い、少しずつ弱っていく老夫婦。
ごく普通の生活をしている女子高生。
被災地に向かう車の中。

会話主体の文章なのに、とてもビジュアル的。
それは我々の記憶の中にある震災当時の映像を引っ張り出しているのか、もしくは自身の歴史を登場人物たちに重ねているのか。
理由はわかりませんが、これほどまでに映像的な小説はなかなかないなぁ。

震災から3年以上を経て、やはり震災に対する心のよせ方とかが薄れてきている中、この本はガツンときました。
おそらく多くの日本人は、2011年3月11日から数日間、自分がどのように過ごしたか記憶しているはず。
ありえない光景が映し出される画面を震えながら見ていた人も多かったと思います。
その時の切実なる思いを、今同じように感じているか。
当時の記憶を時と共に忘れていくのは仕方ないことかもしれませんが、当時見たこと、思ったこと、考えたことは忘れてはならないのではないか。

犠牲者の「声」を我々が聴くことは物理的に無理。
だけど、その「声」を「想像」することは我々にもできるのではないか?
ある一瞬に、突然理不尽な形で命を奪われた多くの人たちの気持ちに寄り添い、悼む気持ちを持ち続けることはできるのではないか?
この『想像ラジオ』は、あくまでも作者が創作した物語ですが、作者が犠牲者たちを「想像」することからはじまり、我々残された人たちにも「想像」しろと呼びかけているのではないか・・・そう感じました。

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『へたれ探偵観察日記』椙本 孝思

へたれ探偵 観察日記 (幻冬舎文庫)

へたれ探偵 観察日記 (幻冬舎文庫)

(´・ω・`)ネタバレがあります(´・ω・`)

奈良を舞台にした、探偵の事件解決モノ3編。
ということで、奈良好きはすぐに飛びついてしまいました(笑)。
本屋の新刊コーナーで見かけて、鹿の表紙をみてジャケ買いです。

奈良が舞台なので、奈良公園の鹿、法隆寺の鐘、飛鳥の発掘現場と、実に奈良らしい場所とアイテムが登場。これだけでもう奈良オタクとしてはワクワク。

精神科医の不知火先生と探偵の柔井公太郎(=ハム太郎)のコンビで事件を解決していくわけですが、このコンビが他の作品ではまず見ることはないオリジナリティあふれるコンビでして・・・いわゆるSMというのでしょうか(笑)。不知火先生のドSっぷりには正直引きまくってしまいますが・・・まぁそのSぶりにも理由があるということが、1話目の最後の最後で明かされます。
もうすこし早く明かされれば、読んでいる最中引いたり不愉快になったりしなかったのでは・・・と思いますが、まぁこれが最後のどんでん返しが効いているということでよいのでしょうか。

とにかく探偵のハム太郎のヘタレっぷりにまず引きます(笑)。
いや、ヘタレというよりももはや病院に行ったほうがいいレベルというか(あ、病院には行っているのか)、明らかに何らかの病名がつくヘタレっぷりです。
プラス、乗り物酔いしやすく、肌も以上に弱く、虚弱体質。
でも、記憶力と推理力は抜群・・・というか、こういうのはサヴァンっていうんですかね?
不知火先生はハム太郎の突出した能力については、ヘタレをこじらせすぎたが故に研ぎ澄まされた能力という解釈のようですが。

事件については、正直しょーもないというか(笑)、ミステリーや謎解きという範疇で見るとあまりデキの良いものではないと思いますが、とにかくハム太郎の探偵っぷりとそれを引き出す不知火先生の獣使いっぷりが楽しめます。
毎月のように大量に創作されていくミステリー作品の中で、これだけのキャラクターを持った探偵というのはなかなかオリジナリティがあって良いのではないでしょうか。
ハム太郎の命を削るような(笑)探偵っぷりは、読者としてはちょっと痛々しくはありますが、これくらいキャラ立ちしていたら、今後の続編も期待できそうです。

奈良にはまだまだ名所や面白い場所がありますので、ぜひいろんな奈良を紹介していってほしいですね~。

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