『横道世之介』吉田修一
大切に育てるということは「大切なもの」を与えてやるのではなく、その「大切なもの」を失ったときにどうやってそれを乗り越えるか、その強さを教えてやることなのではないかと思う。
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ネタバレあります!!![]()
長崎から大学進学で上京してきた横道世之介の、ある1年間の日常が描かれています。
1980年代後半あたりだからバブル真っ盛り、実際登場人物にはバブルに踊りまくっている人たちもいますが、横道世之介はせいぜいサンバを踊るくらい。
でも、当時の華やかで浮かれた雰囲気が、横道世之介の交友関係だったり、バイト先のホテルでのチップだったりで伝わってきます。
主人公の横道世之介は、別に男前なわけでも、特殊能力があるわけでもなく、ごく普通の18歳。
でも、彼のニュートラルなところは、なんともいえない魅力があります。
ごくごく平凡な青年なんだけど、たとえばゲイであることをカミングアウトした男や、彼女が妊娠してしまって大学をやめることになった男に対する態度は、そっけないんだけどあくまでもやさしい。彼は本当にナチュラルでいい人なんだろうなぁ~。
そんなニュートラルな男横道世之介が、物語の後半、バイト先の赤坂から新宿あたりまで、早朝ひたすら歩くシーンがあります。
ただ歩くだけで、なにか特別なものを目撃したり、なにか事件に巻き込まれるわけでもない。
なのに、とても美しくて、崇高で、やさしさを感じるシーン。
横道世之介とその周囲の人たちの普通の生活を描いてきたからこそ、このただ歩くだけのシーンがこの本のクライマックスとしてとても感動的なシーンになっていると思います。
多分、誰もが一度は経験したことのある朝の散歩の空気感のようなものが、読者の中でよみがえるのでしょうか。
大学生・横道世之介の80年代パートと、約20年後の現代パートが入れ替わりながら物語は進んでいきます。
現代パートは、大学生の横道世之介が関わった人たちの後日談。
中でも印象的なのは、最後に出てくる祥子さん。
他の登場人物が世之介とは別の人生を歩んでいたり、中にはほぼ忘れている人もいるほどですが、祥子さんは世之介と一緒に経験したある事件がきっかけで生き方が大きく変わった人。
主人公の世之介よりも、よっぽどドラマチックな人生を歩んでいます。
平凡の極みのような世之介を淡々と描いてきて、最後に流す彼女の涙で、彼が誰かの人生に深く影響していたことがわかる。
我々読者も大半は平凡な人間だと思いますが、そういう我々も長い人生の間で誰かに大きな影響をあたえたりしているのかもしれないなぁ~、もしくは世之介のように短い人生であっても誰かの心に深く記憶されることはあるのだろうか??と、いろいろ自問自答させられました。
きっと横道世之介が平凡な男だからこそ、自分と重ね、自分を省みることになったのだと思います。
作者はその辺まで計算してこの作品を書いたのかな??
やはり小説家って、すごいなぁ~~なんて思いました。
しかし、世之介は結婚していたのだろうか?
20歳以降、どういう人生を歩んだのだろうか??
報道カメラマンになったことはわかりますが、その辺がどうもわかり辛い。
母親が祥子さんに書いた手紙を読むと、どうも世之介に配偶者がいた気配が感じられない・・・妙な事が気になりました(笑)。
先日、この本の作者の吉田修一さんが原作の映画『悪人』が、日本アカデミー賞の俳優部門を独占してましたね~。
確かにあの映画は良かった!!
いずれはこの『横道世之介』も映像化されるんでしょうか。
なんかショボい大学生の生活が目の前に見えるほど、ものすごくビジュアル化向けの作品だと思うのですが・・・
いつものごとく、映像化された場合の配役を考えると・・・
横道世之介は、池松壮亮君あたりはどうでしょうか。
美形過ぎず、素朴な雰囲気で、福岡出身のはずだから九州なまりもバッチリじゃないでしょうか。(世之介は別に九州なまりではありませんでしたが・・・)
祥子さんは貫地谷しほりさんあたりがいいかなぁと思いましたが、ちょっと世代が上っすね。
お嬢さんっぽい、かつ変わった娘っていうのはなかなか難しいですなぁ。
あと、世之介のご近所さんの、インド帰りのインストラクターの女性は、米倉涼子さんのイメージで読んでいました(笑)。
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