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2010年11月 6日 (土)

『悪人』

『悪人』

悪人 シナリオ版 (朝日文庫) 悪人 シナリオ版 (朝日文庫)
吉田 修一 李相日

朝日新聞出版 2010-08-06
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福岡の保険外交員の女が他殺体で発見された。当初は知人大学生との痴情のもつれで捜査が進められたが、被害者の交友関係をたどるうちに長崎の土木作業員が捜査線上に浮かび上がる。被疑者の名は清水祐一、寂れた漁村に祖父母と暮らし、親戚の解体業を手伝いながら趣味は車と出会い系サイトだけという寡黙な男だった。捜査の手が迫ると、祐一は出会い系サイトで知り合ったばかりの紳士服店販売員・馬込光代と逃亡を始める。二人は警察から逃れながら、海のそばに立つ灯台を目指す。

ネタバレの可能性があります

深津絵里がモントリオールで最優秀女優賞を獲得して話題になったこの映画。
なかなかきっかけがなく、公開からずいぶん時間が経っていたのでDVDになってからでもいいかな・・・と思っていましたが、映画館で観てよかったっす。
何よりラストシーンの美しさ、スケール感、神々しさ?は、映画館の大スクリーンで観るのに値します。
それに、小さなことですが祐一の唯一の趣味である車の爆音は聴き応えがありました。
家の地デジ未対応テレビではこの映像美と音は再現されないからなぁ~。って、ウチの鑑賞環境に問題があるだけですが(´∀`;)。

最初主役が妻夫木聡と知ったとき、深い闇を抱える主人公を、あの隠そうとしても陽気なオーラがダダ漏れしている妻夫木君が!!と興味と一抹の不安がありましたが、見てみると改めてこの人は芝居がうまいよなぁ~と思いました。
土木作業と老いた祖父母の世話で日々過ごす青年の閉塞感、鬱屈。
唯一の趣味である車も、祖父の通院の足に使われるばかり。
出会い系サイトで出会った女には金をせびられ、バカにされ、目の前で他の男に媚を売られて約束を平気で破られる。
石橋佳乃がドタキャンして別の男の車にホイホイ乗って去っていくのを車の中からじっと見送ったあと、一瞬にして表情を変えて爆音とともにUターンするシーン、あのときの豹変の演技には鳥肌が立ちました。
一方でラストシーン、祐一の表情で映画は終わりますが、あの妻夫木スマイル(笑)で祐一の本来の人格が表現されていたのは、妻夫木君の演技力のお陰か監督や脚本家(って原作者ですが)の腕なのかわかりませんが、あのすがすがしい笑顔でなんだか救われた気がしました。
本来の祐一は、ああゆう表情のできる子だったんだろうなぁ

この映画で光っていたのは、やはり満島ひかり。(別に上手いこと言おうとしているわけではありません、あしからず)
満島ひかり演じる石橋佳乃がひどい女かついい娘という二面性が際立っていたからこそ、加害者の祐一と被害者父の佳男の悲劇が明確になっていたと思います。
同僚の二人の女の子と鉄鍋餃子を食べるシーン、女性のイヤ~な面(でもあるある~な面)がダダ漏れで、こんなイヤな女の役を見せてくれる女優魂に感服いたしました。
増尾君の車の中でのウザさも、本当に車から蹴りだしたくなる(笑)。
一方で、幽霊?幻影?となって父親の前に現れる佳乃などは、本当に父親にとってはいい娘だったんだろうなぁ~と思わせるほどの切なさ。

もう一人、イヤ~な奴を見事に演じていたのが増尾役の岡田将生。
イヤな奴かつとんでもないヘタレな大学生増尾を、今売り出し中らしき若手俳優が堂々と演じているのがすごい。原作本を読んだときの増尾のイメージそのままで、これは原作者も満足だったんじゃないかなぁ~と勝手に思っています。
『重力ピエロ』や『告白』の時にも思いましたが、こういうちょっとサイコチックな役がピッタリ合うのは、あのキレイな顔と邪悪な笑顔のギャップがいいんだろうなぁ。
まだ役者としての経験は浅いかもしれませんが、立て続けにいい芝居をしているのを観ると、本当に将来どんな俳優になるか楽しみです。

若手たちがいい芝居をする中、ベテラン俳優たちももちろん素晴らしい。
本当にこの作品はキャスティングされた役者一人一人がベストを尽くした作品だなぁと思います。

樹木希林や榎本明がすごいのはもちろんですが、1シーンだけ出演の最低母親役の余貴美子やバス運転手モロ師岡もあまりにも適材適所というか、映画のストーリーにピッタリはまってました。あと、うさんくさい松尾スズキも(笑)。なんだあのハイテンション。

そしてもう一人の主演、馬込光代役の深津絵里。
生まれてからずっと、国道沿線で地味に生きてきた光代。
田舎の国道沿いの紳士服量販店店員で、自宅とアパートを自転車で行き来するだけの毎日を過ごすまさに地味を絵に描いたような生活ですが、よく考えたら私も自転車通勤
同世代だし、外から見ると、私もあんな感じなんだろうかΣ(゚□゚(゚□゚*)
という私の自分語りはどうでもよくて(笑)、そんな地味な三十路女をなんであんなにリアルに演じられるんだ深津絵里。
逃亡の果てに、コンビニの公衆電話から家に電話する時なんて、髪もバッサバサで、「髪まで演技してる・・・恐ろしい子・・・!!」なんて思ってしまいました。
でも深津絵里の透明感と包容力は素晴らしかったです。
かなり年下のはずの妻夫木聡ともお似合いで(そういえばドラマなどで何度も恋人役やってますね)、映画では不幸な結末だったけど、現実の方で付き合っちゃえよ二人~(´∀`)σ)Д`*)なんてなんとも下世話なことを考えてしまいました。

この映画、例えば深夜のGSで車のドアをバンと閉めたあとのシーンとしたところとか、車の通らない夜中の峠でエンジンを止めたときのお腹がチクチクするような静けさとか、そういう「無音」がすごく的確で、田舎特有の閉塞感みたいなものがすごく出ていました。音楽や効果音で盛り上げる映画も多い中、久石譲の上質な音楽を適度に取り入れる演出はとても映画に合っていると思いました。

一方、むむ??と思ったのは、漁村の料理屋でイカ刺しを前に祐一が光代に告白するシーン。なぜか活き造りのイカの刺身の目にズームインし、犯行時の回想がはじまりました。なんかとても笑うシーンではないけれど、しばらく面白くて画面に集中できませんでした。なんだあれ??
切り刻まれ、死にゆくイカに、ゴミのように捨てられ殺されてしまう佳乃の姿を重ねてるのか??なんにせよ、唐突でびっくりしました。
(といっても、笑えるほど面白い演出でもないから、単に重い映画の展開に私の心が笑いを欲していたのかもしれません)

しかし原作者が脚本にかかわっていることから、小説と映画、お互いいい感じに補完しあっています。今後はこういう形式も増えてくるかもしれませんね。

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